ピッツバーグの公共交通機関はバス
公共交通機関のバスにはなかなか慣れませんでした。大学と自宅は車で15分ほど、バスを使うと40分ぐらいの距離です。大学図書館の前には、いまでは公園になっている広大な有料駐車場がありました。料金は1日駐車して約12ドル。バスは学生証を提示すれば実質ダダなので、なるべくバスで行こうとは思うのですが、支度にばたばたと時間がかかったり、厳寒な真冬のバス待ちが嫌だったりと、あれこれ理由をつけてはかなりの割合で車を使うことに。子供達との移動も基本は車。完全にペーパードライバーとなった今では自分が運転していたことも嘘のようですが、人間必要にせまられると苦手なことでもなんとかこなせるものなんですね。
というわけで公共交通機関のバス、なかなか勝手がわからず結構ハードルが高い乗り物でした。ヘレンが教えてくれた降車ボタンの役割を果たす黄色いヒモもそうですが、他にはたとえば混雑時、後ろにいる人が降りる時は、後方のドアを開けてもらうために運転席に向かって「バックドアプリーズ!」と大声で叫ばなくてはなりません。今では何でもないこんなことも苦手で、誰がが言ってくれるのを待ったりしていました。皆んなよく公衆の場でお腹からデカい声が出せるなあと感心しながら。
アメリカのバスの中での危機管理対策
時折、見るからに不審な人が乗っているのもバスを避ける理由のひとつでした。たとえば、見えない誰かに話しかけているのか、ブツブツ独り言を唱えるおばあさん、段々その声を荒げていき、しまいには怒鳴り散らし、その見えない誰かを追い払おうとしたのか、すごい勢いで唾を吐き散らしました。周囲の人は蜘蛛の子を散らすようにその場を離れ狭い車内を右往左往。ある時は隣に座った人がやたら親切に話しかけてるな、もしかしてナンパ?と思ったら、途中から「君は神を信じるか」と聞かれたり。様々な人が乗るためそれなりの危機管理も日本にいる時よりは必要です。
運転手に「降りろ」と言われ・・・?
さて、入学当初、定期券がわりの学生証がまだ交付されておらず、その都度お金を払ってバスに乗っていた時のことです。行きは無事に大学まで辿りつきましたが、帰りのバスでちょっとしたハプニングが起きました。私のバスが来たので前の扉から乗り込み料金箱にお金を入れようとしたその時。ドライバーさんが
「降りろ」
と言ったのです。料金箱を手でふさぎながら私の支払いを阻止しつつ「Get off」と。ハッキリ確かにそう言いました。
えっ、私は乗せてくれないの?なんで?行きのバスには乗れたのに、何か悪いことした?一瞬頭は混乱し、いったん足を乗せかけたステップから降りようとしました。すると今度は
「ノー、ノー、ノー、ユーゲットオン!」と乗るように促します。一体どっちやねん。
頭にはてなマークが浮かんだまま、お金を払わずに乗り、しばらく観察していると、やっと分かりました。料金前払いだった行きのバスと異なり、帰りは後払いだったのです。行きは前払い、帰りは後払い、そんな仕組みは日本で見たことがないので想像できませんでした。ドライバーさんは「降りる時に払うんだよ」You pay when you get offと言いながら料金箱を手でふさいでいたのです。ところが私は最後のget offしか聞き取れなかったのでした。すわ、人種差別かとさえ一瞬思ってしまいました。情けない。。
このエピソード、自分の中では結構面白かったので、ある時、Library Instructionという授業の中で、2分間の即興スピーチをさせられた時に取り上げました。しかし、その場で考えて面白い話をするのは日本語でだって至難の業です。私の組み立て方がまずく、「ゲットオフと運転手に言われた」と話したところで、クラス中がオー、ノー!なんてひどい、という反応を示し、私に一斉に同情の目が向けられました。そこからのリカバリーが全くできず、面白ろおかしい話にしたかった私の目論見は見事に外れたのでした。人に言いたいことを伝えるのって本当に難しい、、、。
(つづく)