【43】一番熱心に取り組んだ授業はストーリーテリングだったと思う②

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自由なスタイルで語るクラスメイト

ストーリーテリングの授業では語りのスキルそのものを細かく指導されるということはありませんでした。我々はプロの俳優や語り手を目指すわけではありません。最も大事なことは、内容的にもテキストにおいても質の高い話を選ぶこと、これは日本と共通した指導方法だったと思います。

しかし、クラスメイトの発表を見ると、ただ棒立ちで淡々と物語を語るという人はほぼ皆無。みんな身振り手振りを使い、ある人は教壇前のスペースを縦横無尽に飛んだり跳ねたり、声色を使ったりと本当に様々でした。そして、これについて先生は良い悪いのジャッジは特に行いませんでした。先生自身も、毎回クラスの最後にはおはなしをひとつ語ってくれましたが、身振り手振りはそれなりに入っていたし、必要に応じて顔の表情も変えていたし、声色も使っていました。私はとても意外に思いました。

日本の伝統?おはなしの「作法」

ここまで読んで、図書館業界、とりわけ児童図書館サービスというものに普段なじみのない方は「ん?だってそれ、普通のことじゃない?子供におはなしを語るとき、声色を使ったり、顔の表情を変えたり、あるいは身振り手振りを使うのは自然なことじゃない?」と思われる方もいらっしゃると思います。これが日本では案外そうでもないのです。

ストーリーテリングは、俳優や落語家や講談師など、血のにじむような稽古を重ねたプロフェッショナルな人々がやる芸とは全く違い、素人が語ることを前提としています。だから、むしろそういった技巧を一切排除し、質の良いテキストを一字一句たがわず淡々と語るべきという。そうすれば、言葉の力だけで映像が立ち上がり子供に感動を与えられる、そういう考えが多数を占めているのです(もちろんこれに反対する別の流派もありますが)。

さて、英語で書かれた日本の昔話を探した時、なかなか良いテキストに出会わなかった私は、仕方なく日本の昔話が多数おさめられた絵本から「ぶんぶく茶釜」を選びました。しかし、元が絵本ですから、文章は絵を補足した程度にしか書かれていません。細かい描写がなく、きっと伝わりづらいだろうなあと思いながら準備をし、身振り手振りもなしに淡々と語ると、果たしてクラスの反応はいま一つ、先生も可もなく不可もなしという表情をされていました。

うーん、やっぱり英語でまともに書かれた昔話、どこかにないかなあ。

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 フラン・ストーリングスさんに連絡

その時、ふと、ああそうだと思い出しました。なぜもっと早く思い出さなかったんだろう。ぴったりの人がいたじゃないか。さっそく実家の母にから教えてもらったメールアドレスに連絡をしてみました。

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その方は、オクラホマに住むフラン・ストーリングスさんといって、プロのストーリーテラーでした。図書館や学校、国際フェスティバルなどでパフォーマンス活動をされているほか、ワークショップやセミナー講師も多数行い、世界の昔話を収集しては英語に翻訳している方です。フランさんは、幼児保育の世界では知らない人はいないであろう昔話の語り手の藤田浩子さんを見出した方でもあり、当時藤田さんと一緒に全米を回っては日本語によるおはなし会を精力的に実施していました。実は、藤田さんと私の母が昔からの活動仲間(兼親しい友人)だったこともあり、フランさんの話は母から幾度となく聞いていたのですが、右から左に聞き流してしまっていたので、そのことをすっかり忘れていたのです。

フランさんはすぐに返事をくださいました。フランさんのメールを読んで、私はまた目から鱗が落ちました。

(つづく)

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