【75】バキュームカーの臭いのする家を見学に来たPhDの日本人留学生、15年たってメディアで目にするたび、いたたまれない気持ちが蘇る

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家中の窓を開け放ち風を入れる

午後に家の見学に来る人がいることをすっかり忘れ、思い立ったら吉日とばかりにゴミ処理をしてしまった私。結果、家中がバキュームカーの臭いで充満してしまいました。来客の時間は刻一刻とせまっています。とりあえず窓という窓を開け放ち風を入れました。5月半ばとはいえ、秋田とほぼ同じ緯度に位置するピッツバーグ、窓を開放するには肌寒い時期ですが、そんなことはお構いなしです。玄関と裏庭に続くお勝手口を開けると、一気に風が通って臭いはだんだん弱まっていきました(その分ご近所が臭っていたのか・・・?それは今となってはわかりません)。

しかし時間が経つにつれ、今度は私自身の鼻が麻痺してきました。今、この家はくさいのかそうでないのか、私の嗅覚ではわからなくなりました。最初は騒いでいた子供達も、同様に嗅覚が麻痺してきたようです。

正直に事情を話せば良かった

そうこうするうちに予定通り見学の方がやってきました。チャイムが鳴ると、私は何ごともなかったかのように、しかし内心はドキドキしながらその方を家の中に招き入れました。

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見学者は、私と同じ大学に通うPhDの社会人留学生でした。細かいことは忘れてしまいましたが、ご結婚を控えていて2人で住む家を探している、という話だったように記憶しています。各部屋を案内しながら、この方、何か違和感感じてないかなあ、くさいと思ってたらどうしよう、少なくとも私はくさくないから大丈夫?いやいや鼻がバカになってるだけなのかも、、、気になって気になって仕方ありません。お願いだから何も感じてませんように。心の中でむなしい祈りを唱える私。

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そんなに心配ならハッキリ言えば良かったのに。たとえば、午前中これこれこんなことがあり、この家は糞尿の臭いが充満してしまった、だいぶ風を入れて消したつもりだけど、私の嗅覚は麻痺してしまった、くさかったらごめんなさい、いつもはこんな臭いじゃないですよ、、、と。私はいったい何をためらったのでしょうか。おそらく、ゴミを溜め込むズボラ人間と思われたくなかったのでしょうね。

アカデミー賞受賞作の「パラサイト」でも匂いは物語を進める上での重要な鍵でした。ふだん意識するしないに関わらず、くさいものをくさいと口にすることはよほどの近しい関係でない限り憚られます。文字どおり「くさいものに蓋」をしたくなる心理が働くのかもしれません。

さて、家の見学はひと通り終わり、私の日本の就職先の話などを差し障りない程度に話したり、しばらく雑談したあとその方は帰って行かれました。その後、この家を引き継ぎたいという連絡は来ませんでした。原因が家の臭いだったのか、4人の子供達とさんざん住み荒してしまったからか、それとも他の理由かそれはわかりません。

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15年後の今、メディアで目にするたび

家を見にきたその方、実は経営学分野でかなり著名な先生になられていることを最近になって知りました。私もすっかり忘れていたのですが、ある日誰かのメルマガの引用記事を見て、どこかで見たことのある名前だなあと思い、過去のメールを掘り起こしたら、その方でした。知人の新刊の帯を書いていたり、インタビュー記事がSNSでシェアされることも。が、私からその節はどうもー、と連絡する気にはなりません。なるべく記憶を呼び覚ましたくない・・・。今後も遠くからご活躍を見守らせていただきます。

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ところで、夫は昨日のエピソードを読み、「まああなたのことだから何も驚くことはないけど」と半ばあきれつつ、「奮闘してきちんとゴミを片付けたとか、責任感があるとか、なんか自分の強みみたいに言ってるけど、そもそも普通は大ごとになる前に捨てるよね」と、至極真っ当な意見を申しておりましたとさ。(つづく)