【23】幼稚園児にもプレゼンの宿題が出た

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次女はジョアンという友達ができたおかげで、毎日上の兄姉と連れ立って元気に幼稚園に通っていました。いまだ英語はわからないものの、ぽつりぽつりとジョアン以外の名前を口にするようになったある日のこと、担任のミス・ケリーから一通の手紙をもらってきました。

「ハルナのお母さんへ。明日、ハルナはShow & Tellの当番の日です。家からクラスで見せたいものを持たせてください」。

Show & Tellって、、、。おお、「見せましょう、話しましょう」のことじゃないか。今のアメリカの幼稚園でもやるんだーと私は思いました。

「見せましょう、話しましょう」は児童文学者で東京こども図書館の創立者、松岡享子さんの訳。ベバリー・クリアリーの「ヘンリーくんシリーズ」に何度か登場します。Show & Tell 、これはアメリカのプレスクールや幼稚園で行うスピーチのことです。自分の家からおもちゃ、ぬいぐるみ、植物、なんでも好きなものを持ってきて、それについて話をするという伝統的なプレゼンスキルの訓練です。こんなことを幼稚園の時からやらせるなんて、そりゃあ皆んな人前であれだけ堂々と話せるわけだ、、、。

しかも、まだ片言もまともに話せない子供にも容赦なく宿題を出すとは。当の本人は、自分が明日何をするのかを知ると、みんなの前で話なんかできないー!と泣きながらダダをこねました。そりゃそうだ。

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私は、その頃次女がお気に入りだったディズニーのアリエルの宝石箱を差し出し、これを持っていけばいいよ、と言いました。そして、こう言うんだよ、ディスイズアボックス、イッツマイトレジャー。これだけ。ね、頑張ってね。翌朝、セリフを書いたメモをスクールバックに入れて送り出すと、次女は半ベソをかきながらも割と素直に出かけてくれました。いつものことながら、取りつく島のない私の態度に諦めの境地だったかもしれません。

先生も、英語が話せない子供に本気でスピーチをさせようと思ったはずもなく、次女が皆んなの前に立って箱を見せたら、それなりにフォローをしてくれて無事に事なきを得たようです。

土壇場に立たされて腹をくくるという経験が、大人になった今どれだけ生きているのか、それはわかりませんが、どこかで本人の血や肉になっているのだと思いたいです。

ところで、私の大好きな「ヘンリーくんシリーズ」。学研から最初に翻訳本が出版されたのは、今からなんと約50年前です。「見せましょう、話しましょう」に限らず、ツナサンドを「マグロのサンドイッチ」、Trick or Treatを「いたずらか、ごちそうか」、“finders keepers, losers weepers"というはやし言葉は「拾ったものはその人のもの、なくしたヤツは泣くがいい!」と訳すなど、当時の日本の子供たちには馴染みのなかったアメリカの文化や風習を、松岡さんは独特な表現で伝えてくれていました。お刺身をはさんだパンなんて、アメリカ人はずいぶん気持ち悪いもの食べるんだなあと本気で思っていましたが。児童図書館員だったクリアリーならではの視点は子供の共感を呼び、当時の私も登場人物に感情移入しながら読んでいたことを思い出します。

(つづく)